「この局面をどう捉えたんだ」
まばたきの返しさえなかった。
「なぜチャンスと思えなかった。
ウルゴイティと縁が切れ、ダバリードから自由になれたと」
フェリックスは言葉を区切った。
「あの男の元に戻る障害が無くなったと、なぜ思えなかった」
誰かに聞かれるのを恐れるように小声だったが、最後は鋭い口調だった。
部屋が静まりかえる。
視線を横にずらし、長い間のあと、フェリックスは一つ呼吸した。
「もうだいぶ前に、私は決めたことがある。
当主補佐となって間もない頃だ」
一生告げるつもりは無かったが。
フェリックスは淡い瞳をみつめた。

