「グレース」 向いの座席に座っている秘書にささやく。 「ウルゴイティのペントハウスに忘れ物をしたんだ。 さやかに立ち寄りの許可を求めて」 久しぶりの空間。 ウルゴイティに漂う香りは懐かしかった。 忘れ物は書斎にある。 骨董としての価値のみで、本来の役目をもはや果たしていない金庫の扉を開けると、ひざまずいた。 一番下の奥の壁には隠し棚がある。 手探りで羽目板を外し、中にしまっておいた物を取り出した。 やっぱり、さやかは気付いていなかった。