「何も。 歩いていたら急に倒れたんだ」 涼が叫び返している。 「どいてください」 涼を突き飛ばすように押しのけている。 「救急車は?」 「呼んだ」 涼は座り込んだまま呆然として綺樹の顔を見つめていた。 成介は眉根を寄せてくちびるを一文字に結んでいた。 「心臓が止まってますね。 何分前です? 警備員にAEDを持ってこさせてください」 成介が今度は心臓マッサージを始めている。 こっちのほうが冷静な分、まともだ。 別に、いいんだけどな。 綺樹は宙に浮いたまま、ため息混じりにそう思った。