車が西園寺ビルの地下駐車場の入り口に近づくと、縞々のバーが自動で上がる。 綺樹は小さい頃に見たウサギの徒競走を思い出して、口元でこっそりと笑った。 よーい、どん、だ。 どこで見たんだっけ。 そうだイギリスだ。 入学が決まってイギリスに渡ったとき、父と兄と3人で見た。 9歳ぐらいで、あれも夏だった。 麦藁帽子を被って、紺色の綿ワンピースで裾に白いレースがついていた。 お気に入りの服だった。 懐かしい。 綺樹は目を閉じて、あの時の風を思い出していた。