「お互い、年をとったな。
それぞれの場所で、守るものと捨てられないものが大きくなりすぎた」
涼が笑っている。
もう時間だった。
涼は腕を解けなかった。
駄目だ出来ない。
涼は震えるように息を吸った。
胸が千切れるとは、こういう感覚のことか。
「行こうか」
綺樹が優しい声で言って、涼の髪をなぜ、体を動かした。
多分、彼女はこの感覚を良く知っているのだ。
自分が出会ってから意図をせずに、何度も経験させたのだろう。
だからその感覚に苦しんでいる他人に優しくできる。
綺樹が腕の中から抜け出ていった。
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