手放したく無くない。 出来ない。 涼は奥歯をかみ締めた。 どうすればいい? 方法は無いのか。 フライパンの柄を握り締めた。 「涼」 隣に立っていた綺樹が涼の腰に腕を回した。 「時は優しいよ」 綺樹はやわらかく言うと、するりと腕を離してリビングへと行ってしまった。 ぬくもりが去っていく。 いいや。 時間と距離は残酷だ。 あなたが誰かに奪われる。 涼はぐっとくちびるを結んだ。