でも今の涼は知らない。
かつて、涼自身が“単なる同居人”の距離をずっと取って、“単なる、かつて関係があっただけ”に過ぎない仲になっていたこと。
そして本気で愛してプロポーズした女がいたことを。
なのに私の弱さのために、回りが政略結婚を押し付け、全部壊したこと。
もしかして憎まれている故の、執着なのか。
愛情は私だけか。
ならば、全て終わった後の涼の回復は早いだろう。
もはや涼の愛情が無いという絶望を感じるのではなく、回復が早いと言うことに安堵を感じていた。
それは終わりを決めたからだろうか。
涼は小麦粉がまぶされた魚をフライパンに入れた。
隣で指についた小麦粉を洗い流している綺樹の横顔を見る。

