しばらく無言で歩いていた。
歩きづらい砂浜では涼の腕は頼りになったし、強い風で体温が奪われる中、暖かかった。
ああ。
胸が一つ痛んだ。
そうか。
こうやって歩いていけば楽だったんだな。
かっこつけて強がって離婚届を出さないで。
本当に他の女に趣向換えするか、見極めてから出せばよかった。
綺樹は口元に微笑を上らせた。
「一緒に暮らし始めたばっかりの頃、二人で南の島に旅行に行ったんだ」
涼が綺樹を見下ろすと、足元に視線を落として微笑していた。
「既に私たちは微妙に距離ができていた。
それをなんとかしたくて誘ったんだ。
無理だったけど」
「そう」
自分が距離を作ったことも、その理由も、記憶がなくても判る。

