ピアノだけのソロでバラードが流れる。
元々はイギリスの歌手が歌っていた曲。
それをジャズアレンジメントしていた。
曲に併せて歌詞が頭の中に蘇り、心臓を凍らせる。
後ろから頭蓋骨を叩きのめされる感覚。
なぜか相思相愛で信頼していた女に、目の前で裏切られたようだった。
涼の様子の変化に成介は気づいていた。
照明が明るくなる。
「なに泣いているんですか?」
「泣いてない」
「ああ、まあ涙はありませんね」
成介はさらっというと、番号のプレートを持って会計に行ってしまった。
成介の指摘の通りだ。
内は泣いていた。

