今の涼を思いやってでなくて、全て彼女の夫だった涼へ向けられた想いだ。
もの凄い痛みだった。
わかってる。
記憶を取り戻せば、自分にも向けられた想いになる。
拳を開いた。
今、ここで自分の怒りや苦しさの解決に向かってはいけない。
彼女に矛先を向けてはいけない。
過去の涼がしたようにはしない。
そうしたら彼女は手に入らない。
ゆっくりと呼吸を繰り返した。
ばかだよ。
全く彼女はばかだ。
当時の自分の小さな幸せだって言えなかったくせに。
そんなに記憶を無くす前の涼が大事か。
片手で目を覆った。
今度はこっちが泣きたい気分だった。

