綺樹は日本酒の入っていた杯をつかみ、一気にあけた。 私は何も失わなくて済んだ。 唐突に綺樹は帰りたいと思っていた。 あのウルゴイティのペントハウス。 巨大なベッド。 重苦しくて潰されそうな空気だが、その分安心感もある。 喧騒もほとんど聞こえなくて、静かだ。 あのおぼれそうなベッドの中で丸くなって眠りたかった。 そして全て忘れてしまいたい。 だけど。 もう帰れなかったんだった。 あそこを出たんだ。 綺樹は自分で悪い酒になったのに気づいていた。 思考がどんどん悪い深みにはまっていく。