綺樹は息を止めた。


「なんだって?」


綺樹は絶句した。

目を見開き、顔色が更に青くなった。

婚姻届にサインしたすぐ後、涼がピルをゴミ箱に投げ捨てた光景が目の前に蘇る。

さやかは社員に見られないように担架を用意し、地下の駐車場から運び出した。

昨日からの出血ならば助かる可能性は低いだろう。

それはさやかも綺樹も、言葉にしなくても十分わかっていた。


「なんてことだろう」


車の中で綺樹はその一言だけ呟いた。

もし涼と離婚していなかったら、激怒していただろう。

もし無事に生まれたら、ウルゴイティや西園寺を巻き込み、問題は大きかっ
ただろう。


「うまく出来ているもんだな。
 生まれてはいけないとわかるんだな」


処置が終わって、病室で二人きりになると綺樹はそう呟いた。