「周りが押し付けた結婚でも、同情でしてもらえる程度は好かれているんだなとか?
愛人の家から帰ってこなくても、頻繁に贈り物は届けられて、西園寺の屋敷から出ては行っては欲しくないんだと察せられるとか?」
「止めてください。
それは幸せじゃないでしょ」
涼は不機嫌そうに眉根を寄せた。
「そうか?
じゃあ、何をあの期間に幸せというんだ?」
綺樹のあっさりとした問いに、しばし絶句した。
そんな関係だったら、解放されたいのは彼女の方だったのではないか。
涼は組んでいた腕を解いてグラスを置いた。
綺樹がフォークを手に取り、マリネの蛸を刺しているのを見つめた。
「申し訳ない。
いい思い出を作ってあげられなくて」

