「いい思い出はないの?」
「いい思い出?」
しばらく考え込むような表情になって手を止めていた。
にやっと笑う。
「家のベッドで他の女と寝ている所に遭遇したとか?
愛人宅に行きっぱなしなのに、帰ってきた途端、強制的に押し倒されたとか?」
涼はグラスを持ったまま動きを止めていた。
「それが最悪事項トップ2?」
綺樹はその返し方が気に入った。
「いや、他人に聞かせるインパクト大のトップ2かな」
「じゃあ?」
口の片端をギュッと持ち上げて笑みを作った。
「自分で思い出せよ」
綺樹は唇を結んで生ハムを刺した。

