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涼からの電話では、キャンパスを案内して欲しいということだったから、大
学の目立つ建物の前で待ち合わせた。

そこへ向かいながら迷っていた。

今ならすっぽかせる。

くちびるに力を入れる。

いや、やらなくちゃいけない。

今までのことを無駄にしないならば。

あれほど苦しみ続けたことを無駄にしない。

一つ呼吸して俯きがちだった顔を上げた。

建物の前に涼が立っているのが見えた。

人が行きかうのをじっとみている。

何を考えているのだろうか。

自分が来るのを探しているような感じではなかった。