「行くか?」
振り返ると綺樹は手すりによりかかり、微かに笑って見ていた。
「もう少し、聞いていかないか?
元妻の謀りごとを」
にやっと笑ってグラスに口をつける。
「興味ないか?」
また両腕を手すりにつき、少し身を乗り出すようにして景色を眺めている。
「腫瘍が見つかった時、医者の説明を受けてね」
突然始まってしまったのに、涼は去るタイミングを逃して同じようにNYの景色を眺める。
綺樹が静かに話すものだから、波の音に紛れ気味になる。
涼は必然的に少し身を寄せざる得なかった。
「ああ、もっと前からの方がいいな」
綺樹は迷うようにグラスをくるくると回した。
「そうだ。
出会った時からにしよう」
くすくすと笑っている。

