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春が来る前の最後の冷え込みの日々が続いていた。

綺樹は家の中に入るとほっとしてマフラーを外した。

何気なく留守電を見る。

自分の行動にまぶたを伏せた。

だから寝たくなかった。

絶対に電話があるはずが無いのに、こうやって確かめるようになるのだから。

コートを脱いでかけようとしたら取り落とした。

身を屈めて拾おうとして、立ちくらみに襲われ、そばにあった家具に掴まって床をみつめる。

自分の意思とは反対にぽたぽたと水滴が落ちて、床に黒い染みが広がってい
く。

駄目だ、駄目だ。

自分の両目を手で押さえる。

泣くなんて駄目だ。