車の中でも、いつもよりずっと空気が柔らかかった。
何かしゃべると元に戻りそうで、惜しくて無言のまま浸ってしまった。
もしかすると、方向性を変えるチャンスだったのかも。
「だよな」
つい怖気づいた。
雰囲気が壊れるのに。
彼女じゃなかったら、高速の路側帯に車を止めて、くどき落としにかかって
たはず。
ただ。
彼女は落ちないだろう。
それは明白にわかる。
不機嫌か、不愉快か、皮肉っぽい笑いか、それを浮かべてこちらを眺めるだけだ。
「ああ、くそう」
ペンで机を連打していたが、書類と一緒に放り投げた。
椅子を立って窓に体を向ける。

