綺樹が見上げると、涼は視線を合わせず身を被せるようにし、くちびるをあわせようとする。

受け止めそうになっている自分に気が付いて、綺樹はすんでのところで顔を反らせた。


「送ってもらった礼を体で払う気は無い」


シートベルトを外すと、冷たく間近にある涼の瞳を見返した。


「邪魔だ」


体をねじるようにして、涼の体の下から抜けて、車の外に出た。

そして振り返らずにロビーに入っていく。

背中でタイヤがきしむ音を聞いて振り返った。

凄いスピードで車が遠ざかっていく。

しまった。


「成介に怒られるな」


綺樹は呟いてからゲートへ向かった。