なぜ、あいつには、そんなに簡単なんだ。
ハンドルを切って車を追い抜いた。
さっきの光景がフラッシュバックする。
血管を流れる血が増える。
「くそう」
拳骨で横の窓を叩くと、またアクセルを踏んだ。
綺樹は引き締まった表情になって鸚鵡返しに繰り返した。
「事故?」
成介はため息をついた。
「記憶を無くしてからと言うもの、あなたのことで心理的に逼迫してくると車を乗り回しに行ってしまうんです」
「なんだって?」
綺樹はちょっとぎょっとした。
「何に乗せているんだ?」
成介は良く知られた外国のスポーツカーの名前を挙げた。

