本当にただ見つめて、寝息を聞いているだけだった。
視線で顔の隅々をなぞる。
閉じられたまぶた。
長いまつげ。
日本人にしては高いけれど、外人にしてみれば小さい鼻。
少し赤みの差した頬。
可愛らしく少し窪んだ下唇。
ふうっと、りんごの甘い香りが漂ってきた。
同時に感じる強い焦りの感情。
なぜだろう。
この部屋にはりんごなどない。
気が付くと香りは跡形もなく消えていた。
前にもあったのだろうか。
こうやって眺めたことが。
記憶を無くす前、目を覚ませば、目の前にあった筈の寝顔。
そう。
自分が残した写真のように。

