「───薫瑠!」

扉を開けたのは、日向さんで。

「……優っ…!?」

日向さんは薫瑠さんの近くにいる私の存在に気づくと、私に急ぎ足で近寄り私の頬を平手打ちで叩いた。

ピリピリと痛む頬。何故か、怒っている日向さん。

私は痛みだした頬に手の平を当てて、ただ日向さんを見ていた。

日向さんは、ハッとして私の腕を引っ張り、ベットから降ろすと、私を無理矢理立たせた。

そして、私の腕を優しく掴むと、日向さんは膝で立ち、私と視線を合わせるために顔を覗き込む。

「何をやっているんですか!…あれほど、今の薫瑠に近づくなと言いましたよね?…バカなのも、いい加減にしたらどうなんですか!?…優、アナタは死にたいんですか?」

いつも、ふざけて私をからかったり、イジメてきたりする日向さんとは違った。

普段とは全く違う日向さんで。今、目の前で怒っている日向さんは、本当に怖い。

そして、私は事の重大さに気づかされる。

…私、本当にしてはいけない事をしてしまったんですね…。ここまで、怒られるとはさすがに、思いませんでした…。

私は、流れそうになる涙をグッとこらえて、口を開く。

「……ごめんなさい…」

日向さんに怒られた私の口からは、ごめんなさい、の一言がこぼれた。

私が謝ったのを聞いて日向さんは、深呼吸をすると立ち上がり、ベットの上のガラスの破片を手で払い、薫瑠さんをベットに横に寝かす。

「……もうちょっと、ヴァンパイアの男とはどういう生き物かをちゃんと知るべきです。…アナタは無防備すぎです…。…少しだけでも…危機感を持ってください…」

日向さんは、冷たい声で私に言い放った。

「……はい…」

……日向さんが本当に怒った姿を初めて見た…。

日向さんは俯く私の頬に手を添えて、優しく撫でる。

「……頬、痛かったですか…?」

私は、優しい声になった日向さんに安心してしまい、思わず涙が溢れ出してしまった。

「……叩いてしまい、すいません…」

「……日向っ…さん…は、…悪くない…です…っ…」

泣き止まない私の涙を日向さんは、ハンカチで拭ってくれる。

私が悪いのに、日向さんは自分を責めてる…。私が悪い筈なのに…。

「…今日はもう、夜遅いです。…アナタは、もう寝るべきですので。……部屋まで、送りますよ」

「……ありがとうございます…」

私は、ゴシゴシと自分の涙を腕で拭う。

「ほら、行きますよ」

「…キャッ……!?」

グラッと滲む視界が急に変わって、気がつけば日向さんにお姫様抱っこされていた。

「暴れないで下さい。…落としますよ」

「…ご、ごめんなさい……」

「ただでさえ、重いんですから動かない努力でもするのが普通です。…そんなに動きたいなら、もう少しダイエットでもしたら、どうですか?」

うっ………。

「……ごめんなさい」

「冗談ですよ。それ以上ダイエットしたら、胸が凹んでしまいます」

クスクスと肩を震わせて、私をバカにして日向さんは笑う。

そんな姿でさえ、綺麗なのだから、日向さんは絶対にモテるんだと私は勝手に思った。

「………うぅ…」

…日向さんが、元に戻ってしまいました…。さっきから、日向さんが私に言う事は、凄い傷つきますよ…。

もう既に、また泣きそうです…。色んな意味で…。

「疲れるので、もう行きますよ」

「は、…はい……」

日向さんは、私にそう言うと、薫瑠さんの部屋から出て私の部屋まで送ってくれて。

部屋に行く途中、日向さんはずっと私の事をバカにしていた。

「そんなにぷよぷよなのに、胸は本当に小さいんですね」

「……ぅ……」

「知ってました?運動しないと、身長は成長しないんですよ?…それに、太っていきますし。…現に、今のBC優さんみたいに」

「……ぅぅ……」

そんなこんなで、部屋に着くまでバカにされ続け、部屋に着く頃には私の心はポッキリと折れる寸前まできていた。

「……では、お休みなさい、BC優さん」

「…はい……、お休みな…」

バタンと閉じた扉。

……やっぱり、これ結構傷つきますね。…この前も同じ事やられましたけど…。

「あはは……」

私は苦笑いを浮かべ、明日の準備をすると、念の為、頬の手当てをした。

「ふわぁ……」

欠伸をすると、ベットに入り布団に身を包み込んで目を閉じて夢の世界へ行った。