「…そろそろ良いかな?待ちくたびれてるんだけど、僕達」

急に声が聞こえて、私と藍さんは素早く離れる。

声の聞こえた方に視線を向けると。

ムスッとしている日向さん。
面倒くさそうに欠伸をしている嶺美さん。
視線を下にしている翔君。
腕を組んで、イライラしている愛希君。
ニコニコしている裕君。

…い、いつから見てたんですか……。とても恥ずかしいです…。

「イチャイチャするなら、どっか行ってくれません?」

日向さんは、冷たく私と藍さんに言い放つ。

「…べ…つに。…コイツが泣いててうるせぇから、慰めてやってたダケで…」

藍さんは頭をかいて、視線をうろちょろさせていた。

「…………そのわりには、藍兄ちゃんの鼻の下伸びてたよー」

「…翔、ふざけた事言ってると殺すぞ」

「ごめんなさーい」

翔君の発言に、藍さんはギロッと翔君を睨みつける。翔君は棒読みで謝ると、椅子に腰を下ろした。

翔君に続いて、ぞろぞろと皆さんは席についていく。

私は、残っていた涙を拭うと静かに椅子に座った。

「あれ?父さんと薫瑠は?」

「………えっと…」

日向さんの純粋な質問に、私は口ごもる。

…急に倒れたなんて…、言えなくて。…それに原因は私の首の傷……。

「……ご飯いらねってよ」

そんな私をみて、藍さんは溜息混じりに日向さんの質問に答えた。

「ふーん…、薫瑠がいないなんて何か新鮮だなー」

日向さんはそう言うと、ふわりと優しく笑う。

「……俺、薫瑠がアイツに運ばれていくの見たけど」

嶺美さんのボソッとした言葉は意外にもよく聞こえてきて。私の身体は嫌でもビクッと震えてしまった。

「アイツって、父さん?」

日向さんは興味津々で嶺美さんに聞き返す。

「あぁ……」

「ふーん……。でも薫瑠が運ばれていくってことは…」

「今日は…、あれだね。……気をつけないと…」

日向さんは急に真顔で声を低く話した。日向さんの言葉に翔君は苦笑いをこぼす。

「あれ…、とは何ですか?」

私は疑問を持つ。日向さんが言うあれ、とは何か。…薫瑠さんが倒れた原因の一つに関わってるかもしれない。

「んー?…薫瑠ってたまに……、人が変わるんだよ。…そうなったら、父さんでも止めるのが難しくなる位…、…危ないんだよねー。BC優さんに一応言っておきますが…、今日から少しの間、薫瑠と関わらない方が良いですよ」

ニコッと、無理矢理微笑む日向さんの言っている事は本当に危ないんだと私は嫌でも感じ取った。

「………ていうか、さっきから気になってたんですけど。…その首の傷、どうしたんです?誰に傷つれられたんですかね、BC優さん?」

日向さんは私の首の傷を指差して、何かを疑うように私を睨みつける。

「…………その…、…気づい…」

「その傷の形、裕の牙ですよね?」

「……………え…」

私の言い訳を遮るように、首の傷をつけた張本人の名前を出した日向さんを本当に怖いと思った。

…これがバレたら…、裕君が怒っ…。