「………おい、……優。…晩飯」

優しい声が、私の耳に入ってきて。私はゆっくりと目を開けた。

「──……藍…さん…?」

藍さんはジッと私の顔を見ていた。不思議に思って、私はゆっくりと身体を起こした。

「晩飯だぞ」

「あ、はい…。ありがとうございます」

私がお礼を言うと、藍さんは少し口を緩めた。

「ほら、行くぞ」

「はい」

私は返事をしてから、部屋を出て藍さんと二人でリビングに向かう。

リビングに入ると、おじさんと目が合う。軽く頭を下げて椅子に腰掛けた。

「……あれ?優さん、その首の傷はどうしたんだい?」

「………………っ」

おじさんに言われて、急いでその傷を手のひらで隠した。

「…あ、…えっと………。なんか、気づいたら付いてました…。あはは…」

バレませんように…、バレませんように…。

「そうかい。…それなら良いんだけどね。牙の形に凄く似ていたから、もしかしてアイツら兄弟の誰かが無理矢理飲んだのかと」

勘違いなら良かった、とおじさんは優しく微笑んだ。私も、おじさんに微笑み返す。

それから少しの間、私とおじさんと藍さんで話していると、リビングに荒々しく薫瑠さんが入ってきた。

「か、薫瑠さん?どうし…」

私が少しビックリして、薫瑠さんに声をかける。薫瑠さんは、血相を変えて私に近づき肩をガッチリ掴んだ。

「優さん!…アナタ、何故家の前で倒れてたんですか!?」

「…え……、……ちょっと…。お腹が空いて力が出なかっ……、いっ…たい…」

私が嘘をついて誤魔化そうとしたら、薫瑠さんが肩を掴んでる手の力が強くなる。

「誰に飲まれたんですか!…答えなさい!」

いつもの優しい薫瑠さんは、どこにもいなくて。今、私の目の前にいる薫瑠さんは、狂ったように怒っている怖い薫瑠さんだった。

「……………………」

なんで、こんなに薫瑠さんは怒ってるんですか…?そんなに怒られるような…、事は…。

「優さん…っ。黙ってないで何か話し…………」

私が黙りこくっていると、薫瑠さんは急に後ろに倒れた。

「…薫瑠さん?!」

「薫瑠!」

おじさんは、倒れた薫瑠さんのそばに駆け寄った。

「優さん、後でその傷のことで話をしよう。……藍。私は今日、ご飯はいらないと言っておいてくれ」

「はい…」

「あぁ」

おじさんは、私と藍さんの返事を聞くと薫瑠さんを肩にかけてリビングから出て行った。

「…………………」

「…っ……ぅ……」

私は俯いて、涙を流す。

私のせいで、薫瑠さんが倒れてしまって。私のせいで、おじさんは大変な思いをしてしまった。

……私がいるだけで、皆さんが不幸せになってしまっている。

私のせいで……、全部──。

突然景色が変わり、感じた温かい温もりに一瞬涙が止まる。

「………ぇ…、藍さ…」

「…声…、抑えて泣くな。バカ…」

藍さんは、私の腕を引っ張って優しく抱きしめてくれた。

「……ふぇ……うぅ…っ…」

藍さんの優しい声で、私は安心したのか涙がボロボロと零れて止まらなくなる。

「……だから、俺に言えって…。…お前一人で抱え込む必要ねぇんだよ」

優しく背中をさすられ、思わず言いそうになってしまった口を閉じる。

「………言わないのかよ」

「……すいま…っ……せん…」

「……別に」

藍さんは、少し不機嫌そうにボソッと呟く。その時、ふと誰かの溜息が聞こえる。