「「……………………」」

私と裕君は、無言で歩き続ける。

…私のせいなんですけど、……気まずいです…。

でも…、なにか話題を………。

「……ぇっと…、裕君…」

「……………なに」

冷たい風が、私の身体を冷やしていって。裕君の冷たい態度も、風と比例して余計に冷たく感じる。

予想通りだけど、やっぱりまだ…怒ってますね……。

「…あの………」

伯一先生にアドバイスを貰ったから、…大丈夫…、多分…。出来る……。


「……私、王神君とは友達を……ヤメたくないです」

私は、冷たい空気を深く吸い込むと、裕君の背中越しから声をかけた。

「…………………」

私が話してる間も、裕君は歩くのをヤメなくて。

「…でも…、裕君と仲が悪くなるのは凄い嫌です」

「…………………」

私は、足を急がせて、裕君の手首を掴んだ。

裕君は、私の手を振り払おうとはしなかった。私が裕君の目の前に立つと、裕君の瞳が少し揺らいで。

「……裕君と仲が悪くなるのは本当に嫌…なんです。………王神君のことを無理に信用してください、なんて言わないけど…。…でも、少しだけ…私を信用してください。…王神君は裕君が思っているほど、危ない人ではないと思いま…、……うぁ…!!!」

裕君は、突然私の胸ぐらを掴むと、私の首筋を思い切り噛んだ。

ビリッと異常な程の痛みに、私は気を失いかける。

痛すぎて否定も拒否も出来ない私の血を、裕君は我を失ったかのように沢山飲んでいく。

「…んっ…───………。………その傷が治るまでに、王神を危ない奴じゃないって証明出来たら許してあげるよ」

唇を離したかと思えば、裕君は私の肩を思い切り押す。

私は、そのまま後ろに倒れ込み背中を強打する。

短い時間の中で、起きた出来事が痛すぎて私は自分で起きあがると涙を流した。

「……ひっ……く………」

「ごめんね?…僕って意外に優しくないんだ」

裕君はそう言って、私の前髪を強く掴むと、ニッと口角をあげる。

「…泣いたら、僕が謝るとでも思った?」

冷たくて暗い瞳に見つめられた私は、ただ恐怖心しかなかった。

「……ごめ…んな…さぃ…。…ご…めんな…さい…。……ごめんなさい…っ…」

裕君の前髪を掴む力が強くなっていて、私の口からは謝る言葉しか出てこなかった。

「……謝るの…、遅いよ。バーカ」

「…………っう……」

また押されたかと思うと、無理矢理その場に座らされて。

裕君は脚をあげると靴を私の顎に当てる。

「…………優の分際で、僕に逆らうとか有り得ないんだけど」

「…ごめん…なさ………」

「だから、謝るの遅いって」

裕君は、そう言ってニコッと笑うと顎から靴を離すと私の胸を軽く蹴って私の横を通る。

「………その傷、………多分、一週間近く消えないから…。まぁ、精々頑張ってね」

裕君は手を振ってスタスタと歩いていき、私は泣きながら立ち上がった。

「…っ…ふぇ……っう……────」

痛い…、身体中が……。

足からも、手からも、首筋からも…血が流れていた。

私は、身体を引きずるように道を歩き、那崎家まで戻った。