三階にある一年生の教室に、私達は急ぎ足で向かった。

「ぎ、ギリギリセーフ…!」

翔君は、腕を横に広げてニコッと笑う。

「…疲れた」

愛希君は、疲れた表情で時計を見る。

「あ、後少し遅かったら入学式の当日に遅刻だったね」

裕君は、時計を見てから私に微笑みかけた。

「ほ、本当で…」

「「「「きゃぁぁぁああ!!!」」」」

翔君、愛希君、裕君が教室にはいると、教室が壊れるんじゃないかって位の女子の叫び声があがる。

そして、あっという間に三人は女子に囲まれる。三人は、心底面倒くさそうにしていた。

「きゃっ………、……いててて……」

私は、女子に押されて、後ろに倒れ込む。

「ソナタ、大丈夫か?」

「……あ…、はい…。大丈夫です…」

立ち上がろうとしたときに、一人のある男の子が心配そうに私に手をさしのべてくれた。

私は、その手を握って立ち上がる。

「怪我はないか?」

「はい!…心配してくれて、ありがとうございます」

男の子は、私の顔を覗き込むように聞いてきた。

「礼には及ばぬ。……ほぅ…、ソナタは人間なんだな。……我は、后 王神(キサキ オウカ)じゃ。以後お見知りおきを」

そして、私の胸ポケットを見ると口角をあげる。

「あ、私は神咲優です。よろしくお願いします。王神君」

后王神と名乗る男の子は。

黒髪のおかっぱで、日本の和風を思わせる男の子。黒くて綺麗な目はクリッとしていて、少しタレ目。

背は少し低くて、優しい雰囲気を持った男の子。

「あぁ、よろしくな。優」

王神君は、私の頭を優しく撫でると、優しい雰囲気を漂わせて笑う。

初めての友達が、優しい王神君で良かった……!

と、思ったのに。

「ちょっと。アンタ、気安く優に触らないで」

いつの間にか近くにいた裕君が、王神君の手を振り払う。

「お主は、誰じゃ。我は優と友達になった所なんじゃ。邪魔はヤメてもらいたい」

王神君も、さすがに裕君の行為に怒ったのか、振り払われた手を撫でながら裕君を睨みつけていた。

「僕は那崎裕。……アンタ、ヴァンパイアなんでしょ?…優の血は絶対に飲ませないから。ていうか、優に近づかないで。……アンタ、…なんか信用出来ない」

裕君は、そう言うと私の事を裕君の後ろへ引っ張った。

じょ、…女子の視線が痛いです………。

「友達にヴァンパイアや人間など、関係なかろう。……我は、ただ純粋に優と友達になりたいだけじゃ。ソナタには関係なかろう?…優もそう思うだろう?」

王神君は、裕君の言葉に負けずに反論すると、私に同意を求める。

…ハッキリ言って、私も王神君と同じ意見なんです。友達に、ヴァンパイアや人間とかは関係ないと思うんです…。

でも……、裕君との関係上…私はあまり逆らえる立場でもないんです。

「なになに?どうしたの?裕と…えっと…」

私が、オドオドしていると、翔君が愛希君を引き連れて、険悪な雰囲気の三人に話しかけてきた。

「后王神じゃ。以後お見知りおきを」

王神君は、翔君と愛希君に優しく微笑んで自己紹介をした。

「僕は那崎翔。よろしくね、王神君」

「……那崎愛希」

翔君は、ニコッと明るい笑顔で微笑んで自己紹介を返す。愛希君は、ボソッと面倒くさそうに自己紹介を返した。

「で?王神君と裕、どうしたの?」

翔君は、二人の険悪な雰囲気が気になるのか、二人に聞き出していた。

「コイツ、優の血…狙ってる。…絶対に」

「我は、そんな事一言も言っておらぬ。…それに、我は優と友達になりたいだけじゃ。血など興味はない」

「…絶対に嘘!ヴァンパイアが血に興味ないなんて有り得ない!僕だって、今すぐにでも血が飲み…」

「「「きゃぁぁぁああ!!!」」」

「「「裕くぅぅん!!私の血飲んでぇぇ!!」」」

裕君が言い掛けている途中で、クラスの女子はまた裕君を囲み始めた。

「ちょっと!今、大事な話して……、な、愛希!!翔!!助けて!!」

女子に揉みくちゃにされて、裕君は泣きそうになりながら、愛希君と翔君に助けを求める。

「あははー!裕モテモテー」

翔君は、女子に揉みくちゃにされている裕君を指差してゲラゲラ笑う。

「いい気味…」

愛希君は、フッと口角をあげて鼻で笑う。

そんな愛希君と翔君も、すぐに女子に囲まれてしまっていた。

私はそんな三人を見て苦笑いを浮かべる。その時、王神君は私の腰に手を回す。

「うるさいのが、いなくなったの。……優、これからよろしく頼むな」

ニカッと笑う王神君に、私は少し苦笑いを返す。

「…こ、こちらこそ、よろしくお願いします!王神君」

こ、腰から手…離してくれないのかな…?