「…はぁ……はぁ……」

日向さんはずっと下を向いて、荒くなっている呼吸を整えていた。

日向さんはある程度、呼吸が整うと私の腕を力強くグイッと引っ張ってくれた。

そのまま日向さんは自分の方へ私を引っ張り、私を優しく片手で抱きしめると屋根の上へ倒れ込む。

日向さんは私を抱きしめていないもう片方の腕で目元を隠してまた荒くなっていた呼吸を整える。

その間、日向さんの胸に耳を当てると、日向さんの心臓は異常な程に脈を打っていて。

日向さんの心臓の音を聞いて、本当に自分は人に迷惑かけてばかりだな、と改めて思う。

特に日向さんには結構、迷惑をかけている…。

薫瑠さんの時も迷惑をかけて怒られてしまったり…。

気をつけて下さい、と言われたのに私が気を抜いて休憩をしたせいで、日向さんに迷惑をかけてしまったり…。

私って本当に迷惑ばかりかけてますね…。

と、心の中で反省をしていると、日向さんが深い溜息を吐いた。

「……気をつけて下さいと…言ったのに…アナタは本当にバカじゃないんですか?」

「…すみません…」

私が謝ると、日向さんは私の頭に手を当てた。

「……アナタって…本当に…ほっとけないバカ女ですね…」

「…うっ………、…す、…すいません…」

日向さんにバカ女、と強調され私は少し傷つき小さく声をもらした。

でも本当の事なので否定出来ないのが辛いです…。

「「………………」」

少しの間、私と日向さんの間に無言が続いた。

そして、私はあることを忘れていて小さな声をもらす。

「…あの…、助けてくれて…ありがとうございます…」

助けて下さったのに言わないといけない事を今まで忘れていた私は思い出して、すぐさま日向さんにお礼を言った。

「別に…アナタを助けた訳ではないです…。…父さんに怒られるので一応、助けてあげただけですから…」

「……そうだとしても…、ありがとうございます…」

「………いえ」

日向さんは一言言うと、私を支えながら起き上がってから最初に日向さんが屋根に座ると、日向さんの足の間に座っている私を持ち上げて日向さんの隣に座らせてくれた。

「……はぁ、朝から大変でした…。どこかのアホバカ女さんのせいで…」

「………すいません…」

そう言っている日向さんの横顔は、少し微笑んでいるようにも見えて。

日向さんにつられるように私も少し微笑んだ。

なにか話題がないかな…、と頭の中で話題を探していると、ついさっきまで話していたヴァイオリンの事を思い出した。

「……日向さんってヴァイオリン弾けるんですか?」

「…弾けますけど、それが何か?」

日向さんは私の質問に空を眺めながら素っ気なくだけど答えてくれる。

「…あの…出来たらで良いんですが…。…ちょっとだけ…弾いてくれませんか…?」

「……何でですか?」

「……さっきのヴァイオリン、…日向さんが弾いていたんですよね…?……とても綺麗だったので…もう一度だけ聴きたいな…と思いまして…」

「……はぁ…」

私が聴きたい理由を話すと、日向さんは深い溜息を吐いてから、少し俯いていた。

「………やっぱり…、ダメでしたか…?」

私は体育座りをしながら、顔を少しうずめて日向さんに視線を向ける。

私が小さく聞くと、日向さんは私の方へ視線を向けて、すぐに視線を空へと逸らし。

「…少しだけですからね」

日向さんは面倒くさそうに言うと、ヴァイオリンを手に取り、ヴァイオリンを弾く姿勢になった。

「……!ありがとうございます!」

日向さんが私のお願い事を聞いてくれた事が凄い嬉しくて、私は思わず大きな声でお礼を言う。

それから日向さんはヴァイオリンをゆっくりと弾き始めてくれた。

日向さんが弾くヴァイオリンは綺麗で透き通っていて…、でもどこか芯のある音。

私はいつの間にか、呼吸を忘れる位に日向さんのヴァイオリンの音に聴き入っていた。