日向さんは突然、短い溜息を吐くと。

「…BC優さん、そこで話すのそろそろやめてくれませんか?」

「へ?」

「下向き過ぎて首痛いんです。…中に戻って寝るか上に来て僕の隣に来て下さい」

「…あ、…では…上へ行っても良いですか?」

「……………え?」

日向さんは私の選択にビックリしたのか小さく声をもらした。

「…え?…あ、ダメでしたか?」

「……いえ。…てっきりBC優さんの事だから、寝る方を選ぶと思ってたので少しビックリしただけです」

日向さんは嫌味っぽくそう言うと、チラチラと何かを探すように視線をちらつかせた。

「………そ、そうですか…」

私の事だから…ですか…?

一体、私は日向さんにどんなイメージで見られてるんでしょうか…。

少なくとも良いイメージは無さそうですね…。

「…はぁ、仕方ないので僕の隣に来て良いですよ…。……そこのハシゴから上ってきて下さい」

「あ、はい…!」

返事をしてから日向さんが指を指した方へ行くと、目立たないお屋敷の端っこから少し離れた所に、屋根の上へ繋がる長いハシゴがポツンとあった。

私はハシゴに足をかけて、ゆっくりと上へ上っていく。

上をチラッと見ると、日向さんが顔をひょこっと出していた。そして、口に手を添えると。

「足を滑らさないように気をつけて下さいねー」

日向さんは私に向かって声をかけてくれた。私は嬉しくて、ニコッと微笑んだ。

ひ、日向さんが私の事を心配してくれたんですかね…?

凄い嬉しいです…!

「は、はい…!……心配してくれて、ありが…」

私が大きな声で言っているお礼と被せるように、日向さんは口を開いた。

「勘違いしないでください。…BC優さんが怪我したら僕が父さんに怒られるので、気をつけて下さいねと言っただけですから。別にアナタの事は心配してないです」

「………そ、そうですよね…。……気をつけます…」

またまた私の勘違いでした…。

…よくよく考えたら、日向さんが私の事なんかを心配する訳ないですよね…。

私はそう考えながら、心の中で苦笑いをしてハシゴを上っていく。

長いハシゴに少し時間をかけながらハシゴを上っていくと、日向さんの顔がちゃんと見えるようになってくる。

「…も、もう少しですね…」

私は最後の力を振り絞って、ラストスパートのハシゴを上った。

「ふぅ………」

屋根が見えて上半身を全部上りきると、私はハシゴに腕を絡ませて一息吐く。足はまだハシゴにかけたまま。

「やっと…ここまで……来れました…」

ちょっと疲れたので途中で休憩です…。

「BC優さん、そんな所で休憩してたら危ないですよ」
 
私が休憩をしているところを見て、日向さんはいつもより少し真剣な表情で私に注意をした。

そして日向さんは注意をしてすぐに、私の近くまで歩いてきた。

「あ、日向さん。…後もう少しで上りき………っ!?」

上りきります、そう言おうと思っていた途中で片足がズリッとハシゴから滑り落ちる。

背中がゾワッとした時にはもうハシゴから落ちる瞬間で。

「………優…!」

目を見開いて日向さんは凄いはやさで私の元へ来ると、日向さんは落ちていく私の腕をギリギリの所でガッと片手で掴んでくれた。

日向さんに腕を掴まれているだけの不安定な身体はユラユラと宙に揺れて、心臓はバクバクと脈を打つ。