首を傾げる私に蛍ちゃんは笑って言う。
「私が子供たちに残す、ほんとうに必要なものが入ってるの。大まかに言えば、成人式の時に着る着物とか……まぁ、そういった先々のものね」
「いつの間に用意していたの……」
「これはもう、ずっと前から。病気になる、ずっとずっと前から」
「…………」
きっと、蛍ちゃんは――……
千春と虎太郎が大人になったときのことを想像しながら用意していたんだろう。
もちろん、その未来に自分も一緒にいることを忘れずに――……
「この鍵は、ここに置いておくから」
「……は? なんでそんなところに?」
鍵の置き場は、病室のサイドテーブルの引き出しの裏。
そこにテープで留めておくと言う。
「で、このノートを、私物の最終処分の時にキッチンの食器棚のいちばん下の引き出しに入れておいて」


