治療を止めたあと、おばあちゃんは大好きなおじいちゃん、そして子供、孫たちと普通の生活を送ったそうだ。
迫りつつある別れの時は誰もが分かっていたけれど、おばあちゃんの最期の願いを叶えたいと、誰ひとりとして泣くことはなかったらしい。
それから私と市瀬はしんみりと温くなった生ビールをすべて飲み干した。
靴屋の営業時間が終わらないうちに、私は市瀬を解放する。
会計は、割り勘。
身内のことで大変な状態になっている私に飲み代を奢ってくれるほど、市瀬は同情的じゃない。
むしろ、そっちのほうが有難い。
別れ際、市瀬は思い出したように言った。
“お姉さんの意思を尊重してあげてください。……静子さんにだってあるでしょ? 理想的な死の迎え方が”
……理想的な死の迎え方。
言われてみて、思い出す。
克明ではないけれど、私にだって理想的な死の迎え方があるのだ。


