「ドキュメンタリーとかでよくあるでしょ。“生きたい”って強く願って、過酷なガン治療に耐えた人の話とかって」
「……うん」
「ばあちゃんも最初はそうでした。自分が先に逝ったら大好きなじいちゃんが1人になってしまう。じいちゃんのためにも、絶対に克服してみせるって」
「……………」
だけど、と、少し俯いて市瀬は言葉を続ける。
「実際、長い長い苦痛を伴う治療が続くと辛いんですよ。周囲がどれだけ励ましたって、本人の痛みや辛さを共有できるわけじゃない。“頑張れ”“もう少しの辛抱”って言うけど、それはいつまで続くのか。乗り切ったら100%完治できるのか。二度と再発しないのか。……そんな保証、どこにもない」
とうとう私は、相槌すら打てず、ただ黙って聞くことしかできなくなった。
「“やりたいことをやって死にたい”。それがばあちゃんの望みでした」
「…………」
「抗がん剤のおかげで腫瘍は少しずつ小さくなっていたし、治療を続けていたら完治したかもしれない。だけど、ばあちゃんの願いを尊重して、治療を止めたんです」
「…………」
「それから半年ぐらい経った頃かな。ばあちゃんは息を引き取りました」
“何ひとつ、悔いは残っていない”
それが、おばあちゃんの最期の言葉だったという。


