「えー? 蛍子ってば栗沢さんみたいなのがタイプなの!?」



昼食後に、シャツの袖のボタンが取れかかっていることに気づいた。

女子社員に裁縫セットでも借りようと休憩室のドアに手をかけた僕は、ドアの向こうから自分の名前が聞こえてきたもんだから、つい、手を引っ込めた。



「もう、大好き! 好きすぎて大変なのよ!」



興奮したように言う声の主は、僕のことが好きすぎて大変らしい。

……そんなに大変なら、好きなのをやめればいいだろうに。



「けど、栗沢さんって厳しすぎでしょ! 笑顔を見せるのは客の前だけだし。そりゃまぁ、かっこいいけどさぁ、性格がねぇ……」



……かっこいいと言ってくれて、どうもありがとう。

しかし、“性格がねぇ……”って。その続きはいったいなんだよ?



「やだねぇ、梢ちゃん。あたしは栗沢さんがかっこいいから好きになったわけじゃないのよ」


「は!?」



梢ちゃん、と呼ばれた女子社員の驚いた声とともに、僕もまた「は!?」と声を上げそうになる。


かっこいいからじゃない?

おまえらの間では、僕の性格さえも難あり、なんだろ?


それなら、僕のことを好きすぎて大変な君は、いったいどこに惹かれたというのだ?