「はい、母上、ただいま戻りました」
母さんもまた、毎回お決まりの言葉を言って妄想話を止めてくれた。
僕と母さんの距離が近くなるのはこういう時くらい。
僕が成長していくにつれて、少しずつ距離ができてくる。
逆に距離が近づいていくのは、女同士の母さんと姉ちゃん。
2人で恋愛話で盛り上がったり、果ては、母さんが姉ちゃんの初恋を成就させるために作戦立てたり。
母親との密接な関係が恥ずかしいと思っていたくせに、僕は、少し姉ちゃんが羨ましかった。
けれども、僕と母さんには2人だけの合言葉がある。
“こっちの世界に戻っておいで”
“ただいま戻りました”
それだけで僕は、ちょっとだけ優越感に浸ることができた。


