「……そんな虎太郎ももう中学生かぁ。早いわね」
しみじみと言いながら、母さんは僕の頭にそっと手を乗せる。
恥ずかしい気持ちと、胸の奥がキュッと締め付けられるような切ない気持ち。
複雑な感情が入り乱れて、僕はその手を払うこともせず、ただ、されるがまま。
「そろそろ反抗期がやって来て、“くそばばぁ”なんて叫びながら夜の街をパラリラパラリラって……」
ううっ、と、母さんは大げさに嘆き悲しむ演技をする。
「……母さん。こっちの世界に戻っておいで」
母さんの妄想を止めさせるとき、僕はいつもそう言う。
“こっちの世界に戻っておいで”
そう。
それは、呆れるくらいに妄想することが大好きな母さんを現実に戻すための、魔法の言葉だった。


