「あぁぁぁ、母さん、早く行こう。姉ちゃんたち、あんなに遠くに行っちゃったし!」
僕たちのずいぶん先を歩いている父さんと姉ちゃんを指さして言うけれど、母さんの思い出話は止まない。
「虎太郎、“母さんは僕が守る!”って言ってくれたのよ? それはもう、男らしいというか何というか……」
うっとりした顔で母さんは遠い記憶のなかに埋もれていく。
僕からしてみればそれは、胸のずっと奥にしまっておいて、そのまま墓場まで持って行ってほしいくらいの、恥ずかしい思い出。
――きっと、あの頃の僕は必死だったんだろうな。
大好きな母さんを危険なものすべてから守ってやる! って。
もちろん、その思いは今でも変わらない。
……なんて。
母さんには、面と向かって絶対に言ってやらないけれど。


