「……ねぇ、虎太郎。覚えてる?」



そう母さんが切り出したのは、小学校の卒業式の帰り道だった。



「なにを?」


「……3年生の時だったかなー。みんなでお花見に行ったじゃない?」


「……3年生の時って。お花見は毎年行ってるじゃん」


「ううん、3年生の時のお花見のこと」



3年前のお花見。

何があったのか僕はよく覚えていたけれど、恥ずかしくて、わざと「覚えていない」と答えた。



すると母さんは、ふふっと優しく笑いながら話し始める。



「千春とお父さんが場所取りに行って、お母さんと虎太郎が出店に食べ物買いに行ったじゃない?」


「……そうだっけ?」



とぼけつつも、それは昨日のことのように鮮明に覚えている。