学園の生徒も、役員のおじさん方もざわつきはじめ、有田藍は虚言癖があるのではないかと疑い始めた。
妖怪が見える人間。
あり得ない、そんな存在が自分だと主張する彼女に、嘲りと不信感が募る。

「彼女、妖怪が見えるとか言って、千秋さんの気を惹きたいだけじゃないの?」

そんな声も聞こえ、年頃の女の子たちの目が細められた時。


ピリピリとした空気を裂くように、しゃんとした声が響いた。



「可能性は、無きにしも非ずです。」


そう言って状況を変えたのは西文紫月だった。

記録の家系。

太古の昔から、世の中の出来事を自分たちだけが読める文字で書き綴ってきた一族、西文家。

彼らは政治的な改革や戦争のこと、神話や伝承、果ては信憑性の低い噂話まで記録する。
しかし世の中というのは不思議なもので、それまで根も葉もない噂話だと思っていたものが調べてみると事実だったということがある。

だからこそ西文家一族はどんなに馬鹿らしい子供の戯言でもしっかりと書物に自分たちだけの字で記録してきた。



そんなわけで、今回藍を救ったのは西文家が記録した東北での噂話だった。