不滅の妖怪を御存じ?






「おや。」


それでもこんなボロ銭湯に来る物好きはいるもので、一日に十人ほど客は来る。
来る人は十年前から一人たりとも変わらない。
新規のお客さんが欲しいなぁ、と藍はぼんやり思う。


「おや。」

先程と同じ台詞。
実はこれ、十年以上通い続けているお客さんの注文の仕方なのだ。

藍は諦めてカウンターを見る。


「おや。」

三度目。
冷たい目で見られ、しぶしぶフライパンを持つ。

髪の長い女の客はいつも「おや。」としか言わない。
何度目かの来店のときにようやく彼女は親子丼を頼んでいるつもりなのだと分かったときは驚いた。
こどん、の三文字くらいめんどくさがるな。


「三十分ほどお待ちくださーい。」

適当にそう言えば、カウンターからこちらを見つめる女の目つきが険しくなる。
負けるかこのやろう。