改めて常寂光寺を正面から見る。
一面緑色だ。
淡い光が石畳に落ちている。
階段はかなり長い。
よし、行くか、と藍が足を踏み出そうとした時。
階段の先に、ひょっこり人影が見えた。
遠目にははっきりしないが、白と赤の色合い。
俗に言う、巫女姿。
あれ、寺に巫女っているっけ?と藍が不思議に思っているうちに、その姿は動き出した。
階段を駆け下り、どんどん藍の方に近づいてくる。
カラッカラッと下駄の軽やかな音。
顔が見えてきた。
黒髪パッツン前髪。
ポニーテールが元気に揺れる。
ぱっちりした大きな目をキラキラさせて、彼女はやや低い声で叫んだ。
「有田藍さん!?」
カラカラッという下駄の音と共に彼女は藍の目の前に来た。
ハッハッと荒い息遣い。
乱れる呼吸にあわせてポニーテールも微かに揺れる。
「よく京都まで来てくれたね!岩手からじゃ遠かったでしょ?」
「う、うん。」
がばっと顔を上げ藍の方を元気に見つめてくる。
大きな瞳。
上気した頬。
人懐っこそうな、犬みたいな子だった。


