「彼女はどちらも選べる。敵も味方も。」
「そんなん、藍の勝手だろ。大体敵とか味方とか戦争でもするわけじゃないんだから。」
無視しようとも思ったが、このままでは姉はずっと話し続ける気がしてつい蛍は反論してしまった。
しまった、と思うがもう遅い。
「戦争だよ。妖怪たちの妖力が二千年経ってようやく溜まってきたから、向こうもそろそろ動き出す。」
「また妖怪。」
「妖怪はいるの。」
はー、と竹内蛍はため息をつく。
現代の人々が幽霊の存在を少し信じているのと同じように、平安時代の人々が鬼の存在を信じていたという話は聞いたことがある。
それにしても、信じるだけならまだしも戦争とまで言うとは。
「もう始まってる。」
「戦争が?」
「そう。東北で得体の知れない妖怪が目覚めた。妖怪の最高峰である九木が父さんと母さんを殺した。そして、」
竹内天音はそこで言葉を区切りじっと竹内蛍の目を見つめた。
「有田藍が、妖怪たちの力の源に異物を混入し、九木を怒らせた。」
数秒の沈黙。
竹内蛍はひくりと唇を震わせた。
妖怪の最高峰の九木とかいうやつがどういうやつなのかは知らない。
けれど姉の口調から察するに只者ではないらしい。
竹内蛍は心の中で呟く。
藍、お前一体何やらかしたんだ。
友人の安否が心配になってきた。


