大地震が起きた。
町中の家が一つ残らず崩れてしまうような。
男の家も例外ではなかった。
早朝。
不穏な地響きにハッと男が目を覚ました瞬間。
激しく大地が揺れ、家具が倒れ物が落ちた。
柱がぎゅいっと曲がったと思ったら、次の瞬間には耐えきれなかったようにメキリと折れた。
柱が絵の方へ倒れていく。
男はその光景を見た瞬間、とっさに身体を張って絵を守った。
例え自分が死んだとしても、この絵が無傷であれば。
そしてこの家に火事の火が回ってこなければ。
瓦礫の中から誰かが見つけて大切に保管してくれるかもしれない。
そんな、一縷の望みをかけて。
だが、男の想いも虚しく柱は男の身体を貫き、絵はその血を浴びて真っ赤に染まった。
鮮やかだった金色も、美しい青色も、男の血で赤黒くなった。
そうして、男は大切にしていた絵を見るも無残に汚して息絶えた。


