風呂場の壁に大穴があいた。

親代わりだった人が実は妖怪だった。


藍にとっては悪夢のような一日であったが、悪夢はまだ終わっていなかったようだ。

ドタドタから一夜開け、朝起きると弓月はどこにもいなかった。
分かってはいたが少し寂しい。

弓月は妖怪だったのに、どうして藍を育てていたのか。
妖怪と人間が戦うと言っていたが、そんなことが現実に起こり得るのだろうか。


実際問題、藍はまだ昨晩の出来事を受け止めきれていなかった。
夢だったのではないのかとさえ思ってしまう。

今日も夜がくれば弓月は屋根に登る。
そうして竹竿を振り回し、ありもしない星を取ろうとする。
また、坂口安吾のピエロ伝道者を語り始める。
そんな気がしてたまらない。


藍は一通り家の中を歩き回りようやく腰かけた。
弓月がいつも作ってくれていた質素な朝ごはんがない。

それもまた変な感じがした。


「空にある星を一つ欲しいと思いませんか?」

幾度となく聞いた弓月の声を思い出す。
本当にいなくなっちゃったんだな。

しみじみとそんなことを思っていたら、ピンポーンと呼び鈴が鳴った。

近所付き合いの悪い藍の家に人が来るなんて珍しい。
寝癖を慌てて整え藍は玄関に急ぐ。

訪問者は意外な二人だった。