「待っておれ。今、霧を晴らす。」 鈴を鳴らしたような声が聞こえた。 聞いたことがある声。 だが、いつもと違うように聞こえた。 「弓月……?」 藍の呟きには誰も応えなかった。 ゆっくりと霧が晴れてゆく。 室温もそれに伴って上がっていく。 明瞭になった視界で、おかしな光景を見た。 中央、風呂を挟んだ反対側に弓月はいた。 着物。 黒い羽根。 頭に黒い茶碗のようなものをかぶっている。 弓月の高い鼻。 赤い顔。 それはまさに、 「天狗?」 弓月の周りにも何人か立っていた。