考える千秋を横目に、藍は微妙な面持ちでダンの手を握っていた。
千秋はダンの能力で九木を殺すことを提案した。
つまり、ダンを九木と共に過去へ連れて行くつもりなのだろう。
確かに、天音の話では6550万年前に自然が滅んだとは限らない。
ダンの願いの口を使った方が確実といえば確実だ。
「有田藍」
突然呼ばれたフルネーム。
千秋のその声音に違和感をおぼえながら顔を上げる。
そこには、やけに神妙な顔をした千秋がいた。
「君さ、提案した時、自分で実行する気はあったの?」
「そこまでは……」
藍は答えながら視線を彷徨わせた。
自分でもいい考えだと思ったのだ。
九木を殺すには良いと。
ただ、その後のことを考えていなかった。
一緒に行った人は死ぬと、千秋に指摘されて初めて気付いた。
「私、死にたくないんだけど」
自分でも情けない声だなとは思った。
千秋は馬鹿にするでもなく真顔で頷く。
「当たり前。誰だってそうだよ」
死にたくないと藍は言った。
だが、だからといって千秋に代わりに九木と死んでもらうというのも嫌だった。
別に千秋を好ましいと思っているわけではない。
一回くらい本気でへこめばいいと思うくらいの好感度だ。
ただ、千秋に代わりに死んでもらったという負い目を背負ってこれから生きていくのが嫌だった。
人を死なせた罪悪感で生きていても辛いだけだ。


