「君さ、分かってる?」
「何が」
「一人は絶対死ぬよ。九木と一緒に」
九木の、時の右手は誰かと一緒でなければ使えない。
千秋としては東北の妖怪と九木が一緒に過去へ行って、二匹の牛木が消えてくれれば都合が良いのだが。
東北の妖怪は話せないし、有田藍がそれを良しとするとは思えない。
「考えてみれば確かにそうだね」
「そこまで考えてなかったわけ?」
「伊勢君、何とかできない?」
あっさりとこちらに丸投げしてきやがった。
千秋は細い目元をつりあげ有田藍を睨む。
「何で僕が何とか出来ると思うんだよ」
「え、継承者だし何とかなるかなって」
「無茶振りすぎる」
うーん、と考え始めた有田藍。
その隣では天音がルーズリーフに一心に書き込みを入れている。
今まで読んだ恐竜絶滅に関する研究を片っ端から書き込んでいるらしい。
千秋はその二人を見ながら口をつぐんだ。
一つだけ、気がかりなことがある。
先ほど、壱与の妖力が消える前。
天狗の妖力が一瞬で消えたのだ。
妖力を探知できない藍はこのことを知らない。
妖怪たちの間で何があったのか詳しいことは分からない。
ただ、天狗の一族が死んだことは確かなようだ。
有田藍にこのことを伝えない方がいいだろうか。
いつも無表情で何を考えているか分からない女だ。
それでも、親代わりの天狗が死んだと分かればそれなりに傷つくのだろうか。
結局、千秋は黙っていることを選択した。


