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夜になった。
いつもだったら十人しかいないお客さんが来て、睨まれながら親子丼を作っている時間だ。
だが、今日はいつもとは違った。
藍は一人椅子に座りボーッとしていた。
おかしい。
外は真っ暗。
だが、今この店にいるのは藍一人だ。
客も来ない。
弓月もいない。
長年この店の手伝いをしてきたがこんなことは初めてだ。
藍はドキドキと不安になってきて、立ったり座ったりを繰り返した。
もしかして皆で出かけているのか。
それならそうと一言くらい欲しい。
カーテンを開け藍は外を眺める。
月も星もない、黒い夜空が見えた。
チリン。
普段聞かない音が突然落ちてきた。
「鈴?」
音に反応して後ろを振り返るが、誰もいない。
お客さんが座るソファー。
低めのテーブル。
いつも通りだ。
だが、またチリン、と鈴の音がした。
「……なに?」
背筋が寒くなる。
チリン、とまた。
今回はどの方向から聞こえたのか分かった。
風呂場だ。


