「じゃあ、僕はもう行くから。時間がないし」
とりあえず、神にはまだ頼らないでねとだけ言って千秋は走りだそうとする。
桜は慌ててその背中に向かって声を張り上げる。
「お前、この状況で何ができるんだよ!」
桜の声に千秋はめんどくさそうに振り向いた。
「九木を倒す」
「無理だって!」
「可能性はある。賭けだけど。一日経っても九木の妖力が消えてなかったら、神に頼って」
それだけ言うと、千秋は今度こそ本当に走り去っていった。
意外にも竹内天音はその場を動かず残っている。
「千秋、何考えてんすか?」
全く説明する気のなかった千秋に少し怒っていた桜は竹内天音に詰め寄る。
完全に八つ当たりだったのに、天音は気にした様子もなかった。
「有田藍さんと、東北の妖怪で、九木を殺せるのではないかと」
「殺したら、自然が死んで人間も終わりでしょう」
「違う時間に行けば問題ないので」
パチリと。
竹内天音と目が合った。
桜は口を少し開けて、何も言わずに閉じた。
「千秋は、何を」
「乙姫と交渉を」
竹内天音も千秋並みに説明してくれない。
何なんだこの二人。
桜が歯がゆく思っていると、天音は呟くように言葉を続けた。


