不滅の妖怪を御存じ?







「そこにいるの?東北の妖怪が」


千秋のひんやりとした声が降ってきた。
完全に怒っている。

ダンについて伝えてなかったのは紛れもなく藍の非だ。
それに関しては後で謝ろう。
そう思いながら、藍はダンの頰を両手で包む。


「口、開けて」

じっとこちらを見つめてくる潤んだ瞳。
無垢な目だ。
やがてぱかりとダンは口を開ける。

そこから漏れ出てきたのは。
仄かな、青白い光だった。
つまり、これは。


「願いの、口」


一体どこで何があってこうなったのか。
全然分からない。

ただ、一つ言えることは、ダンが牛木の能力の一つ、願いの口を保有していることだ。

何はともあれ、壱与はこのことを承知しているのだろうか。
慌てて後ろを振り返るが、その姿は既にない。

藍の胸に不安が広がる。
悪い状況だというのは分かっていた。
やってしまった、ということも分かっていた。
せめてダンを見つけた時に、壱与の封印を解く前に、千秋に伝えていれば。

本当に、人間の存亡が危ぶまれるほど取り返しのつかないことをしてしまった、というのが、今頃になってじわじわ実感してきたのだ。