「………消えなさい」
がさついた女の声が、森に広がった。
決して大きな声ではなかったのに、その声は不思議と森に染み込んでいった。
助かった。
藍が封印を解いたのか。
有明はそう思ってほっとした。
これで全部終わったと、安心しきっていた。
壱与が「消えろ」と言ったので、願いの口で九木は死ぬはずだ。
そう、信じて疑わなかった。
上から九木の声が降ってくるまでは。
「なんだ。壱与も大したことのない」
その声と共に、ボトリと、上から何か、重いものが落ちてきた。
困惑と共に顔を上げる。
だらりと垂れた舌。
虚ろな黒い瞳。
流れ出る赤い血が、地面に染み込んでいる。
女の、頭部だった。
人間の死体が、そこにはあった。
深淵が森に広がる。
天狗の一族は滅び、壱与は物言わぬ死体となっていた。


