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痛いくらいに九木の妖力が肌に刺さる。
有明はそれでも走り続けた。
腕に抱えた箱の中の楢柴がガタガタと揺れる。
ようやく見つけた弓月の後ろ姿。
彼は人を一人抱えてるというのに飛んでいるからかとても速い。
有明はその姿を見失わないようにするので精一杯だ。
「弓月!」
すぐそこに九木が座している場所があるが、有明は構わず叫んだ。
これ以上距離を離されてたまるか。
鬱蒼と苔が生い茂る中にある穴。
九木の住処。
その中に抱えていた人間を放り込む弓月。
そして、ゆっくりと、めんどくさそうに有明の方を振り返った。
何も思ってなさそうな顔。
有明はとにかく言いたいことをまくしたてた。
「俺はお前らに利用されるなんて真っ平御免だ!」
「うるさいぞ。静かにせい」
弓月の呆れたような声にイラッとした。
こっちは全力で追いかけて汗だく息切らして必死でやってるのに。
ズンズンと進み弓月の真正面に立つ。
そして、ズイッと力強く桐の箱を弓月の胸元に押し付けた。
「自分で渡せ!」
有明がハッキリとそう言い放つ。
それから、ひんやりピリピリした妖気を放つ九木の住む穴を見る。
中に放り込まれた人間は確か、
「あんたが今九木のとこに入れたのは竹内の人間だろ。あいつをどーするつもりだよ」
「時間稼ぎだ。まだ壱与の封印が解けないようだからな」
「あいつ、藍の友達だろ」
「だから何だ」
心底どうでもよさそうな弓月。


